ビットコインにおけるアトミックスワップとは

2017年の9月、ビットコインとライトコインとの間でアトミックスワップが成功したと報じられ、ビットコイン取引に参加している人々の間で大きな注目を集めました。とはいえ報道記事を見ても専門用語が飛び交い、アトミックスワップの何が画期的なのか、どのような仕組みで行われているのか、まるで分からない、という人も多いのではないでしょうか。よく分からない仕組みに手を出すのは怖いことですし、ビットコインの取引において知識が無いということは実際にリスクを背負うことになります。
今回のコラムではビットコインにおけるアトミックスワップについて根本的なところから解説します。

アトミックスワップの概要

どんな情報を集めるにせよ、言葉の意味は正しく把握しておくべきです。アトミックスワップ (atomic swap) を直訳すると「原子の交換」となります。これでは意味が分からない、ビットコインと原子の交換とはいったい何の事だろうと思う方も多いかもしれません。

原子 (atom) は「それ以上分けることができない」という意味を持っています。原子は複製できません。また原子がある場所に存在するときは別の場所には存在しません。言い換えると、原子は一箇所にしか存在せず、コピーできません。ビットコインのように、本来はコピーが容易なデータである仮想通貨にも原子の性質を持たせることができたなら、そのビットコインは原子的(アトミック)であり、その交換(スワップ)は完璧に行われたといってもいいのではないでしょうか。つまり、ビットコインに用いられている技術を考慮してアトミックスワップを意訳すると「コインとコインを完璧に交換すること」を意味するのです。

アトミックスワップとは仮想通貨のコインに原子の性質を持たせ、異なる仮想通貨の間でコインとコインを安全かつ完璧に交換する仕組みのことです。仮に何らかの原因で交換が不成立に終わった場合は、コインは原子の性質、つまり一箇所にしか存在せず、コピーできない、という性質に基づき、元の持ち主の手元に戻ることになります。

アトミックスワップの優れているポイント

ここで、ビットコインの技術に詳しい人はアトミックスワップについて素朴な疑問を抱くことでしょう。ビットコインをはじめとする仮想通貨はそれぞれ独自の仕様を持っています。ハードフォークによってブロックチェーンを分岐させて新たな仮想通貨を作成する場合は、二つのブロックチェーンにおいて同じ取引記録が有効とならないよう、対策を講じるのが一般的です。ブロックチェーンの仕様が異なるため、異なる仮想通貨の間では直接的な取引ができないのです。

異なる仮想通貨の交換を行う場合、例えばビットコインをライトコインに替えたい場合などは、取引所に依頼するのが一般的でした。ですが、取引所に交換を依頼することにはデメリットもあります。例えば取引所に交換を依頼する際に手数料を支払わなければならないということが挙げられます。別のデメリットは、取引所のシステムに障害が発生したり、取引所の手違いが発生したりする可能性がゼロではないということです。

異なる仮想通貨の間で任意かつ安全に直接的な交換ができるとなれば、上述のようなデメリットを解消できます。そのような要求に基づいて開発されたのがアトミックスワップという仕組みです。

アトミックスワップの手順

アトミックスワップが実際にどのような手順で行われるのかということについても知っておきましょう。アトミックスワップに限らず、正しい知識はリスクを軽減してくれます。

例を挙げて説明します。可能であれば、手元にノートと筆記具を用意し、手を動かすと理解がより進んでいきます。

Aさんはビットコインを持っており、BさんはAさんが持つビットコインと同じ価値のライトコインを持っています。AさんとBさんは面識がなく、遠く離れた所に住んでおり、お互いに信頼関係はありません。

このような状況でAさんのビットコインとBさんのライトコインを交換する場合、どちらが先に相手へコインを渡すか、という問題が生じます。Aさんが先にBさんへビットコインを渡した場合、Bさんが裏切って取引を打ち切ってしまえばAさんはライトコインを受け取れず、ビットコインを失うことになります。Aさんだけが損をすることになります。Bさんが先に渡した場合は立場が逆転します。互いの信頼が無い状況(この状態はトラストレスといわれています)では、直接的なコインの交換にはリスクが伴います。

この問題を解決するため、アトミックスワップでは金庫の考え方を使います。金庫にはコインが入っています。金庫を開けるための鍵は、署名と、共通の暗号化された暗証番号です。Aさんのみが暗証番号を知っている状態です。

AさんはBさんに対し、Bさんの署名と暗証番号で解錠可能なビットコインの入った金庫を送ります。このとき暗号化された暗証番号も同時に送ります。この時点では暗証番号は暗号化されていますので、BさんはAさんが作成した暗証番号を知ることはできません。
※アトミックスワップにおいてここが重要なポイントです!

次にBさんも同様に、Aさんに対しAさんの署名と暗証番号を鍵としたライトコインの金庫を送ります。(ライトコイン金庫の暗証番号とビットコイン金庫の暗証番号は共通のものです。)

AさんがBさんから送られてきたライトコインの金庫に署名して暗証番号を入力し、ライトコインを取り出します。

Aさんはライトコインを受け取りましたので、ライトコインが自分のものであると証明するために、ライトコインのブロックチェーンに取引を終えた旨を記述します。その際、Aさんはライトコインのブロックチェーンに、暗号化されていない暗証番号を記載しなければいけません。

ライトコインのブロックチェーンは公開されているため、この時点でBさんは暗号化されていない暗証番号を知ることができます。

Aさんから送られてきたビットコインの金庫を開けてビットコインを取り出し、ビットコインのブロックチェーンに取引を終えたことを記載します。Bさんは既にAさんにライトコインを送っている状態であるため、Aさんから送られてきたビットコインの金庫を開けない理由はありません。双方が間違いなく取引を終えたことは、双方のブロックチェーンを照合すれば済みます。

もしAさんが何らかの理由で一定時間内に金庫を開けなかった場合には取引は不成立となり、双方の手元には送った金庫の中身が戻ってくる仕組みとなっています。この点については、コインの交換がデータのやりとりであるというメリットを生かしています。

アトミックスワップの実現によるビットコインの未来

ビットコインは仮想通貨の中でも最も長いブロックチェーンを持つため、最も安全な仮想通貨であるとされています。一方、ビットコインは価値の上昇を続けているため、ビットコインの最も小さな単位である 1 Satoshi (1BTCの1億分の1) でも決済の最小単位として扱えなくなる可能性が指摘されています。また、最も安全であるためにビットコインの取引参加者も増加し続けています。ビットコインの通信量が増えすぎて通信量が頭打ちになると、決済が遅延する可能性があると指摘されています。

アトミックスワップによって仮想通貨の交換が容易になると、普段は資産をビットコインとして持っておき、必要に応じてビットコインを取り崩してライトコインのような別の仮想通貨に交換して使う、といったことが可能になります。異なる仮想通貨であっても、共通のアトミックスワップの仕様を持っていれば、利用者は取引所を介することなく自由に仮想通貨を乗り換えることができます。

懸念されることとすれば、これまで仮想通貨の両替を行っていた取引所が手数料を得られなくなる可能性が生まれたということでしょうか。取引所が手数料を取れず、立ち行かなくなって閉鎖された場合、ビットコインや他の仮想通貨の取引に参加するための窓口が消えることになります。

その他の方法として、マイニング(採掘)によってビットコインを得られる可能性はゼロではありませんが、マイニングのために大規模な資金と大量の計算機を投入しているマイナー(採掘者)に対して運よく勝てる、という見込みは低いといえるでしょう。


今回のコラムではビットコインにおけるアトミックスワップについて根本的なところから解説しました。アトミックスワップはビットコインのような仮想通貨を、別の仮想通貨と直接交換するために構築された安全な仕組みのことです。アトミックスワップが普及して仮想通貨の安全な直接交換が頻繁に行われるようになれば、仮想通貨の取引はより活発に、かつ柔軟になるでしょう。

ビットコインやビットコインから派生した仮想通貨には最新の技術が集積されており、今日もなお新たな技術の導入が試みられています。新たな技術は便利な機能を我々にもたらしてくれます。一方で「生兵法は大怪我の基」ということわざがあるように、新たな技術とその機能がどのような仕組みで動いているのか把握しないと、無用なリスクを背負うことにもなります。今回の記事がアトミックスワップを理解するための一助になれば幸いです。

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