ビットコインを扱うためのライセンス制度について

ビットコインに関する法制度は世界各国で整備が進んでいる状況である、まだ途上にあるといえます。ビットコインに対する姿勢は様々であり、それぞれの国の事情に応じて見解や法制度が発表されています。アメリカは連邦制を取っており、州によって法律が異なります。とりわけ、ニューヨークはアメリカのみならず世界の経済の中心地であることから、ビットコインに対してどのような法規制を設けるのか注目されていました。2014年7月にはビットコイン事業者にライセンス(免許)制を導入することが提案され、2015年8月に施行されました。このライセンスはビットライセンス(Bit License)と呼ばれています。
今回のコラムではアメリカで特徴的なビットライセンスの経緯と、施行から2年が経過した2017年現在の動向について解説します。

ビットライセンスとは

2009年に誕生したビットコインは2013年3月のキプロス危機を境に既存の通貨に対する価値を上げ始め、2013年12月から2014年の全期間にかけては大きく価値を下げた、という経緯を持ちます。2013年12月時点では最高値で1BTCあたり1100米ドル以上の高値を付けていたビットコインが、2014年の終盤には300米ドルほどまで下落したことは世界各国の警戒を呼びました。

上述の経緯を受けながら、2014年7月、アメリカのニューヨーク州ではビットコイン事業者に対してライセンス制を導入すべきであると提案され、注目を集めました。当時、ビットコインは不安定で信頼できない通貨であると見なされていました。世界経済の中心地であるニューヨークにおいて、政府がビットコイン技術の利活用を視野に入れた動きを見せたことは、驚きをもって受け止められたのです。ビットライセンスの検討にあたってはアマゾン、ウォルマート、マスターカードなど、巨大企業が様々に意見を寄せました。

ビットライセンス発行後の経緯

ビットライセンスはニューヨーク州金融サービス局(= NYDFS : New York Department of Financial Services)によって発行されます。ビットライセンスの審査は非常に厳しいようです。2015年8月に施行されて以来、2017年11月の2年余りの期間を経ても3社のビットコイン事業者のみがビットライセンスを発行されている状態です。2017年9月に決済事業を行う Circle 社、 2016年7月にビットコイン技術を応用した仮想通貨 Ripple を開発している Ripple 社、 2017年1月にビットコイン取引所である Coinbase がそれぞれ NYDFS よりビットライセンスを授与されましたが、以降は新たなライセンスが発行されていません。

ビットライセンス制の施行前、2015年5月に MIT メディア・ラボはニューヨークのビットライセンスが米国におけるビットコイン技術の活用を妨げると批判しました。 MIT メディア・ラボによれば、正しい規制はビットコインの健全な利活用を促進するであろうと認めながら、ニューヨークのビットライセンス制には4点の重大な欠陥があると指摘しました。以下に意訳を掲載します。

1. アプリケーションのアップデートについても NYDFS の承認を受けねばならないため、ビットコインを扱うアプリケーションの新たな機能やセキュリティ上の対策についても遅れを取ることになる。
2. ビットコイン事業者の株式の10%以上が特定の投資家によって投資された場合、NYDFSの承認を受けねばならない。1つの州ならまだしも、仮に全ての州がビットライセンス制を導入した場合、この手続きによってビットコイン事業者は1年以上も資金調達を待たされることになる。
3. ビットライセンスは二重規制となる可能性が高い。具体的にはビットライセンスそのものの交付を受けねばならず、また資金移動業者のライセンスも取得しなければならない。これも全ての州において導入された場合、取得が困難となる。
4. ウォレットアプリの開発者はライセンスの対象にすべきではない。特にオープンソースのウォレットに対しては、開発者がウォレット内のビットコインに関与できない限り規制すべきではない。仮にオープンソースのウォレットアプリまで規制された場合、ビットコインに関する開発や利活用は制限されることになる。

上記のような欠陥が指摘されていましたが、 NYDFS はビットコインを扱う業者に対してライセンス制を導入しました。現在、 NYDFS のライセンスが3社のみに与えられている状況を見るに MIT メディア・ラボの批判は的確だったようです。なお、ニューヨーク州におけるビットコイン事業者の全てが NYDFS のライセンスを取得しているわけではなく、ニューヨーク州の銀行法に基づく銀行業免許を取得し、ビットライセンス取得の免除を受けている業者があります。ビットコイン取引所の Gemini や ItBit が該当します。それでも2017年11月現在、ニューヨーク州においては 5社のみがビットコイン事業者として認められている状態であり、4社が現在もビットライセンスの取得を申請しています。

カリフォルニア州もニューヨーク州に続いて2015年4月にビットコイン取引に対するライセンス制の導入を検討しましたが、公表された規制の基準がニューヨーク州より厳しかったことから、小規模なビットコイン事業者を締め出すための施策であると批判を浴びました。カリフォルニア州は批判を受けて規制の基準を改め、規制の対象を「顧客のビットコイン資産を直接管理できる事業者」に限定しました。

日常生活においてはビットコイン決済が普及しているアメリカですが、事業者にとっては厳しい事情が続いており、州によっては事業のスタートアップの段階から厳しい困難を強いられているようです。

日本のビットコイン規制事情

日本は2014年2月にマウントゴックスが破たんしたこと、またFATF(= Financial Action Task Force on Money Laundering : マネーロンダリングに関する金融活動作業部会)の勧告を受けたことから、2014年6月にビットコインの取引に関するガイドラインを公表しました。その後、2016年5月にビットコインを含む仮想通貨の取り扱いについて定めた改正資金決済法(仮想通貨法)を制定し、2017年4月に同法が施行されました。

日本の改正資金決済法もニューヨーク州と同様、仮想通貨交換業者については認可登録制を取っていますが、2017年3月31日以前から仮想通貨交換業を行っていた業者については「みなし登録事業者」として6ヶ月間の猶予を与えるなど、ビットライセンスに比べるとやや緩やかな規制となったようです。また、ニューヨーク州とは異なり、日本の改正資金決済法は日本全国の事業者に効力を発揮することから、地方ごとに認可を得なければならないという懸念がありません。

2017年11月10日時点で、仮想通貨交換業者として11の業者が登録されており、19の業者が継続審査中となっています。システム管理、マネーロンダリング対策、監査法人の整備など、厳しい審査となっており、特にシステム管理におけるサイバー攻撃に対する堅牢性を見ているとの報道もあります。

今回のコラムではニューヨーク州におけるビットライセンスの経緯と、施行から2年が経過した2017年現在の動向について解説しました。ビットライセンスが提案された当初は驚きをもって受け止められました。これは公的機関がビットコインに関する技術を明確に受け入れるという姿勢を、世界で初めて示したためです。ですが、現在のビットライセンスの実情としては新興のビットコイン事業者の参入を阻む障壁となっているようです。

もちろん NYDFS にも言い分があります。NYDFS が厳しい規制を設けているのは、ニューヨーク州においては最も安全な取引がなされねばならないためである、ということです。ニューヨークは世界経済の中心地であり、金融恐慌による混乱も幾度となく経験していることから、ビットコインの取り扱いに対して厳しい規制を設けるのは NYDFS の価値観からすると当然のことなのかもしれません。

また、少なくとも MIT メディア・ラボが指摘した項目のうち、最初に挙げられた「アップデートのたびに承認を必要とする」というのは間違いであり、単純な更新において承認を必要とするわけではなく、ビジネス上重要な変更のみが承認手続きを必要とする、とコメントしています。

ビットコインに限らず、何らかの規制と利便性は往々にしてトレードオフの関係となります。ニューヨーク州のビットライセンスに比べると緩やかであるとはいえ、日本の改正資金決済法も厳しい基準を設けているようです。ビットコインは誕生してまだ十年も経過していない新しい通貨です。今後も情勢に応じてビットコインに関する法規制は変化すると考えられます。国家は諸外国との利害関係も考慮しながら法律を制定しますから、日本におけるビットコイン関連の法整備だけでなく、諸外国のビットコインに関する法整備についても関心を持つべきでしょう。

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