スイスのビットコイン事情について

ビットコインをはじめとした仮想通貨は従来の通貨には無いユニークな特徴を多く持っています。世界各国の中央銀行もビットコインの動向に目を光らせています。またビットコインに関する法律、特に税制における扱いについても議論と整備が進められています。例えば中国当局は金融機関における仮想通貨の取引を規制しています。欧州においては欧州連合の金融を統括する欧州中央銀行の姿勢が気になるところです。例えば欧州連合加盟国のエストニアが独自の仮想通貨の発行を検討していると報じられた際、欧州中央銀行の総裁はこれをけん制する声明を発表しました。

ヨーロッパの国々においても、欧州連合に加盟していない国も多くあります。日本においてよく知られている国だけでもスイス、ノルウェー、アイスランド等が挙げられます。特にスイスでは、一部の州においてビットコインによる納税を予定したり、一部の大学でのビットコインによる授業料の納付が予定されていたりなど、ビットコインや他の仮想通貨に対して積極的な活用を図っているようです。今回のコラムではスイスにおけるビットコイン事情についてレポートします。

スイスについて


スイスは正式名称をスイス連邦といいます。人口は787万人、国土面積は日本の一割程度と小規模な国です。一方、GDP(= 国内総生産)および国民の一人当たりのGDPは世界の中でもトップクラスであり、経済的に豊かな国であるといってもよいでしょう。スイスの産業としては金融、化学がよく挙げられますが、電力事業についても世界を牽引しています。また永世中立国の立場を維持するため、精強な軍隊と多数の軍事施設を保有していることもよく知られています。

スイスの産業の柱である金融業では、スイスの各銀行が提供しているプライベート・バンキング・サービスが有名です。プライベート・バンキング・サービスでは刑事事件であろうと顧客の情報を漏らさないことで知られています。フィクションにおいてもマネーロンダリングのためにスイスの銀行を経由する様子が描かれることがしばしばあります。とはいえ最近ではスイスリークス事件やアメリカ当局の圧力もあり、顧客情報の取扱いについて態度を軟化させてはいるようです。

また、スイスは世界的に見ても地方分権がとても進んでいる国です。中央機構であるスイス連邦議会は憲法に記された事項のみを担い、それ以外の規定については26の州が独自に定めています。例えば教育については州ごとに教育委員会が存在します。参政権についても州ごとに定めがあるなど、地方自治体の権力が非常に強い国といえます。

スイスの公的機関とビットコイン

金融業が盛んだったスイスにおいて、新たな投資対象となりうるビットコインに対する関心が高まったのは自然な成り行きだったと言えるでしょう。世界各国がビットコインや仮想通貨に関する規制を進める中、スイスは利活用を重視した政策を取りました。より正確に言うと、地方自治体や企業、そして教育機関がビットコインの利活用に向けてそれぞれ動き出しました。

ツークという州は2016年7月、ビットコインによる納税受付を開始しました。ツークではビットコインをはじめとした仮想通貨に関わる企業を積極的に誘致しており、アメリカで半導体産業が盛んとなったシリコンバレーになぞらえてクリプトバレー(Crypto Valley : 暗号の谷)とまで呼ばれています。スイスでは2017年5月には「クリプトバレー協会(Crypto Valley Association)」という非営利団体が設立されました。クリプトバレー協会ではビットコインをはじめとした仮想通貨の研究や議論が行われています。また、ツークに追従するように2017年9月にはキアッソという州がビットコインによる納税受付を開始すると公表しました。納税の受付は2018年1月に開始される予定です。

スイスでは行政機関のみならず、教育機関においてもビットコイン活用の動きが見られます。2017年10月、公立大学であるルツェルン応用科学芸術大学が授業料の納付をビットコインで受け付けると公表しました。大学が直接ビットコインを扱うわけではなく、仲介業者がスイス・フランに換えて大学へ納入することになっています。大学が授業料の納付をビットコインのような仮想通貨で受け付けるようになった事例としてはキプロスのニコシア大学、アメリカのキングス・カレッジ・ニューヨーク、イギリスのカンブリア大学が挙げられます。ルツェルン応用科学芸術大学の場合、元々ビットコインやブロックチェーンといった技術に大きな関心を寄せており、クリプトバレー協会の一員にもなっていたことから、研究の一環としてビットコインによる授業料の納付を受け付けるようになったものと見られています。

スイスの民間企業とビットコイン

先述したようにスイスの銀行業において重要だったプライベート・バンキング・サービスは各国の圧力を受けて業績が悪化しつつあります。スイスでビットコインの利活用が推進されているのは、税収の増加を狙ったものと見られています。実際、スイスの大手銀行ファルコン・プライベート・バンクは2017年7月にビットコイン、2017年8月にはビットキャッシュ、イーサリアム、ライトコインの取り扱いを始めました。またファルコン・プライベート・バンクとほぼ同時期に、スイスクオートというオンライン銀行もルクセンブルクに拠点を置く仮想通貨の取引所、ビットスタンプと連携してビットコイン投資サービスの提供を開始しました。

上記金融機関における仮想通貨取り扱いにあたっては、スイス金融市場監査局(= the Swiss Financial Market Supervisory Authority: FINMA)による承認が与えられています。スイス金融市場監査局とは金融市場における顧客の保護と金融システムの保護を目的として設立された公的機関です。欧州連合はビットコインをはじめとする仮想通貨に対して厳しい姿勢を取っていますが、スイス金融市場監査局はビットコインをはじめとする仮想通貨について、規制を強めず、むしろ新興企業が参入しやすくなるよう規制を緩めています。公的機関がビットコインのような仮想通貨の取扱いについて参入障壁を撤廃する方向で動いているのは世界的にも珍しい例です。

スイスでは仮想通貨の取引以外にも、民間企業におけるビットコインに関連したサービス導入が始まっています。スイスに運営の本拠地を置くメールサービス ProtonMail は2017年8月に決済手段としてビットコインを追加する旨を告知しました。またスイスで発足した Ambrosus というプロジェクトはビットコインに用いられているブロックチェーン技術を応用し、 食品の品質管理を行っています。

また、スイスにはビットコインATMも多く設置されています。 Coin ATM Radar というサイトで世界中のビットコインATM設置場所を確認することができます。2017年11月時点で、日本のビットコインATMは12箇所ほどしか無いのに対し、スイスには23箇所と、面積比で考えると日本の二十倍ほどの密度でビットコインATMが設置されていることになります。スイスではビットコインが速やかに普及していくであろうということを考慮すると、今後もスイスのビットコインATMが増えると考えられます。ビットコインの決済手数料は非常に安価なため、国外旅行者の決済手段としても用いられるようになるかもしれません。

今回のコラムではスイスにおけるビットコイン事情についてレポートしました。スイスの一部の州では納税をビットコインで受け付けるなど、ビットコインの規制よりビットコインの利活用に重点を置いた施策が取られているという点で、規制に重点を置いた施策を進めている諸外国とは違った姿勢がうかがえます。

スイスでビットコインが普及しつつある理由は大きく分けて二つあります。ひとつは地方分権が進んでおり、州が独自にビットコインに関する制度を設けられることです。もうひとつは金融業が盛んであり、ビットコインについても規制より利活用によって得られる利益と税収を重視していることです。

最近、欧州におけるビットコイン情報を探していると北欧のエストニアに関する話題を目にすることが多くなりましたが、スイスでもまた活発にビットコインをはじめとする仮想通貨に関する研究や議論が交わされており、既に産学官民において利活用が進んでいます。スイスにおけるビットコイン活用事例は、他国においても大いに参考になると考えられます。今後も情報収集にあたっては重点的にチェックしておきたい国です。

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