IT先進国エストニアとビットコインの深い関係

ビットコインについて調べているとまず目にする国家の名前は中国、ギリシャ、キプロス、そして世界最大級の取引量を誇るビットコイン取引所 Coinbase の拠点があるアメリカでしょう。特にキプロスや中国はビットコインの歴史に名を連ねていることから、多くの情報が出回っています。
ですが最近では、ビットコインと国家というテーマで最もよく語られるのは北欧のエストニア共和国です。今回のコラムではビットコインのような仮想通貨を発行することさえ検討しているIT先進国、エストニアについてレポートします。

エストニアについて


エストニア共和国はヨーロッパの北方に位置しており、国土面積は九州の1.23倍、人口は約130万人と小さな国です。一方、エストニアは国家が様々な公共サービスを電子化するなど、IT先進国としても知られています。2007年にインターネットによる投票を世界で初めて実施したのもエストニアでした。特に電子居住権制度は E-Residency と呼ばれており、エストニア国民だけでなく国外の外国人にも公共サービスを提供しています。ヨーロッパの多くのIT企業が E-Residency を利用してエストニアに現地法人を設立しています。ソフトウェア開発も盛んで、世界中で利用されているSkypeが生まれたのもエストニアです。

エストニアが国外の外国人にも積極的に電子居住権を与えているのは、エストニアに親和的な人を増やし、ロシアがエストニアに敵対的な行動を取りづらい状況を作ることも目的のようです。エストニアは1991年に旧ソビエト連邦から独立しましたが、2014年までロシアとの国境問題を抱えていました。小国は大国に飲み込まれないよう、ときには生存を賭けて大胆な戦略を取らなければならないのです。

エストニアとビットコイン

さて、エストニアの実生活においては、ビットコインはそれほど普及していないようです。ビットコインを決済手段として扱える実店舗を記載した coinmap で調べてみても、首都タリンに25箇所の店舗がある程度です。また、何らかの形でビットコインを受け取ってもすぐに国内通貨のユーロに換金することが多いようです。

ですが、ビットコイン界隈においてエストニアは大変な注目を集めています。エストニアは納税も含めた公共サービスの多くが電子化されており、電子化されたサービスは国外においても利用できるなど、国内外におけるITインフラが非常に整っています。またエストニアは、ビットコインにおいて使用されているブロックチェーン技術を応用し、医療データの記録や管理、婚姻や出生といった住民の記録や管理も行っています。ビットコインのような仮想通貨を受け入れる下地は諸外国に比べても十分に醸成されているのです。

上述のような背景のもと、2017年8月、エストニアは E-Residency の一環として、ビットコインのような仮想通貨を国家として発行する計画があることを発表しました。より正確には、ビットコインのような仮想通貨を公開して資金調達を行うことを「ICO (Initial Coin Offering)」と呼び、この ICO をエストニアが検討している、という段階です。ICO の提案が支持を集めれば、次の段階として仕様書であるホワイトペーパーの発表が予定されています。エストニアの仮想通貨発行が実現されれば世界中の誰もが E-Residency システムを通してエストニアが発行する仮想通貨を利用でき、ビットコインと同じような利便性を享受できることになります。元より国家的にIT技術の活用を推進してきたエストニアが、IT技術の先端を走るビットコインに目を付けるのは自然な成り行きだったと言えるでしょう。

エストニアが計画している仮想通貨とビットコインとでは異なる点もあります。ビットコインにおけるコインの発行は、世界中のマイナー(採掘者)によって暗号を解く競争を行わせ、正しく暗号を解読したマイナーが新たなコインを発行できるという仕組みになっています。またビットコインの取引履歴を記録するブロックチェーンはビットコイン取引の参加者たち全員で分散管理されています。このようにビットコインが徹底した分散システムを取っていることに対し、エストニアが計画している仮想通貨は発行主体が国家であり、管理もまた国家によってなされることが示されています。具体的な発行方法や運用方法についてはホワイトペーパーが発表されなければ知ることはできません。しかし、先述のようにエストニアはブロックチェーン技術を自国の公共サービスに導入し、官民連携(=Public Private Partnership : PPP)によって運用を成功させています。またイーサリアムの設立者もエストニアに協力して助言を行っています。以上のように技術的な実績があり、計画も着実に立てていることから、ビットコインのような仮想通貨についても発行方法や運用方法に対して現実的な見通しが立てられることが期待できそうです。

エストニアが計画する仮想通貨に対する世界の反応

上述のようにエストニアはビットコインのような仮想通貨を発行・管理することを検討しています。賛否は両論あり、歓迎する声もあればけん制する声もあります。ICO が実施されれば新たな投資対象が生まれることとなるため、これまでビットコインをはじめとする仮想通貨を取り扱ってきた投資家はおおむね歓迎的な見解を示しているようです。エストニアが築いてきたIT先進国としての実績に信頼を寄せ、また国家による初めての ICO ということで、実現後の状況を検証するベンチマークとしての期待もあるようです。

一方、エストニアは欧州連合の一員であり、2011年から国内通貨をユーロに切り替えたため、経済的にもユーロ圏に属しています。このことからエストニアが仮想通貨を発行することはユーロ以外の独自通貨を持つことであるとみなして批判する向きもあります。特に欧州中央銀行の総裁は「ユーロ圏の通貨はあくまでユーロであり、欧州連合の加盟国は独自通貨を発行できない」と公式に表明し、エストニアに対して釘を刺しました。

このように賛否両論の声が上がる中、エストニアはソーシャルメディアにおいて「#estcoin」「#eResidency」といったハッシュタグを利用して多様な意見を寄せるよう求めるなど、実現に向けて意欲的に行動しています。欧州中央銀行の総裁が批判的な声明を出した際にもエストニアのICO責任者は「反応があって嬉しい。欧州全体で話し合いをするべきだ」とコメントしており、批判さえも仮想通貨発行の実現に向けた原動力に取り込もうという強い意気込みがうかがえます。


今回のコラムではエストニアとビットコインの関係について解説しました。IT先進国のエストニアですが、生活面ではビットコインそのものはあまり普及していません。一方で医療データの記録・管理や行政手続きの記録・管理にビットコインのブロックチェーン技術を導入しています。また、独自の仮想通貨の発行に向けて意欲的に行動していることからビットコイン界隈から注目を集めています。

エストニアは、規模としてはとても小さな国です。小国ゆえの生存戦略として国内のIT産業を推進させ、公共サービスに導入して国外の外国人に対しても公共サービスを提供してきました。インターネットを利用した投票システムを世界で初めて実現したこと、ビットコインに使われているブロックチェーン技術も他国に先駆けて公共サービスに導入したことなど、国家として他に類を見ないほどフットワークが軽いという点で目を見張るものがあります。

エストニアによる ICO がいつ実現されるのかは知りえないことですが、建設的な議論が続けられ、ホワイトペーパーが発表されればいよいよ ICO の実施も間近となるでしょう。ビットコイン関連のニュースをチェックする際は、今後も目を離せない国のひとつです。

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